Jリーグでの監督経験豊富ながらも目立った実績のない外国人監督を迎えることになった鹿島アントラーズの2024シーズンは、下馬評の低さを覆すことができず。
ポポヴィッチ監督はシーズン途中で退くことになり、今年も無冠に終わりました。
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シーズン初めにしたためたプレビューもご参考に。
今シーズンを振り返ります。
■2024シーズン戦績
明治安田J1リーグ:
5位(勝ち点:65、18勝9敗11分、得点:60、失点:41)
2024JリーグYBCルヴァンカップ:
1stラウンド3回戦敗退
天皇杯:
準々決勝敗退
■順風満帆とは言えないまでもまずまずだった船出
正直なところ、鹿島アントラーズに対する今シーズンの下馬評は高くありません。
中位よりも上には来るだろうけど、優勝争いには関わってこないであろう。
これが、鹿島アントラーズに対する今シーズンの下馬評だと思っています。
これは主に補強の乏しさであったり、昨シーズンまでの数年間の迷走っぷりに対しての評価という側面が大きいですが、ポポヴィッチ新監督がJリーグでの監督経験豊富ながらも目立った実績のないということも影響しているかと思います。
一方で、キャンプ入り後の報道からは順調な仕上がりも感じられ、他のJリーグチームでは上手くフィットしなかった(かもしれない)ポポヴィッチ新監督の方針が、鹿島アントラーズにフィットしたものと仮定すると、Jリーグでの監督経験豊富さがいい方向に作用するかもという期待を抱かせます。
これはシーズンプレビューからの引用ですが、高くはない下馬評を覆そうな雰囲気も感じさせつつも、そう簡単にはいかないよなとも感じさせたシーズン序盤でした。
ポポヴィッチ新監督を迎えての新シーズンは、3得点を奪ってのクリーンシート。
結果だけ見れば100点満点の船出と言えますが、内容としては恵まれた印象もあり、額面通りには受け取れないかなというのが総じての評価になります。
恵まれた印象もあった開幕戦。
そんな中で、セットプレーの引き出しの多さと前線からの連動したハードワークが特徴として表れていました。
やっと勝てました...
2018年9月ルヴァンカップ準々決勝以来、リーグ戦では2015年8月以来の川崎フロンターレ戦勝利。
川崎が、強かった時期に比べて明らかに下降線を辿っていることに加え、チーム状態もよくなかったことも確かなんですが、それでもずっと勝てなかったことは事実なので、勝ちきれたことを素直に喜びたいと思います。
第4節では長年の天敵と言えた川崎フロンターレに勝ちきりました。
振り返ると、序盤戦ではチャヴリッチの活躍が目立ってましたね。
なかなかダメージの大きい敗戦だな...というのが率直な感想。
それは、今シーズン初の連敗だからというわけではなく、後半リードされてからの戦いぶりに半端ない手詰まり感を感じてしまい、すでに底が見えた感すらあったからでありまして。
3勝1敗1分けで迎えた第6、7節と連敗。
選手交代でも流れを全く変えることができなかった後半を観るに、ポポヴィッチ体制にこれ以上の上積みが望めるか...個人的にはかなり懐疑的になってきたかな...と考えての冒頭の発言です。
チーム作りの中の過渡期であればよいのですが...
私の見立てが外れてくれることを祈ります。
結果的には私の見立てが外れ、チーム作りの中の過渡期ゆえだったことが明らかになっていきます。
■ピースの最適解を見つけ出し上昇気流に乗る
チームが上昇気流に乗りだしたのはGWの連戦から。
この試合から8試合連続同じスタメン、ピースがハマり、それに伴って結果も付いてくるようになりました。
トップの鈴木優磨が下がったり、サイドに流れボールを収め、それにより空いた前線のスペースに2列目の機動力ある3選手が入っていき決定機に繋げる。
推進力のある左SB安西と決定力のある右SB濃野が攻撃に厚みをもたらし、佐野、知念の回収能力に秀でた2ボランチと高さ強さに秀でた植田、関川と不動のGK早川でリードを守り切る。
多少大雑把ではありますが、この不動のスタメンによりチームは上昇気流に乗ります。
昨シーズンシーズンダブルを食らった上に2試合で8失点という屈辱。
そんな昨シーズン王者相手に勝ちきりました。
昨シーズンを制したヴィッセル神戸、2位の横浜F・マリノスに真っ向勝負で勝ちきり、いよいよこれは頂点を目指せるのではと感じた時期でした。
守備の力で流れを徐々に引き寄せての逆転ゴールはSB濃野。
これでシーズン5ゴール目となった大卒ルーキーは試合を重ねるごとに攻撃面での才能が開花していっている印象で、大外からゴール前に飛び込んできての決定力はチームにとって大きな武器になってきています。
以前はFWだったというのが頷けるシュート力で、シーズン2桁ゴールもいけそうですよね。
この2戦でともに決勝ゴールを挙げたのが右SB濃野。
濃野がキ・キ・キ・キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
これは素人目にも完璧な崩しでしたね。
名古のダイアゴナルランで空いたスペースへのパスに飛び込んできたのはSB濃野。
ワントラップからのシュートはリフレクトしてのゴールイン。
リフレクトしなかったらGK正面だったかも。
濃野は今シーズンの5ゴール目。
元はFWだったことを窺わせる決定力は鹿島の大きな武器になってきました。
濃野の決定力が光るのはもちろん、決定機に繋げていくためのスペースの作り方など、ポポヴィッチ監督の狙いが如実に表れているゴールでした。
ただ、好調期は長くは続かず、振り返ってみるとここがシーズンのピークだったように思います。
8日で3試合の連戦を全く同じスタメンで乗り切りました。
それだけチーム作りが進んでいるとも言えるでしょうが、切り札であるチャヴリッチを除くと、一人でもメンバーが代わるとバランスが崩れかねない危うさも潜んでいるように感じています。
層を厚くしていくことが優勝を狙うには不可欠で、ポポヴィッチ監督の手腕が問われるところです。
こちらは第15節神戸戦からの引用で、メンバーを完全に固定化することによるリスクについて懸念している発言でしたが、それが顕在化するのに時間は要しませんでした。
■果実の先獲りだったのが明らかに
シーズン中盤に差し掛かると、戦績は徐々に下降線を辿るようになります。
第18節から3試合連続引き分けの後、第15節で勝ちきった神戸相手に現在地を暴露される形での完敗を喫します。
[ ランコ ポポヴィッチ監督 ]
--鈴木 優磨選手がいなかった試合をどう戦い、どうカバーするつもりだったのか、その評価を聞かせてください。
前半の戦い方ではなく、後半の戦い方を最初からしたかった、というのが狙いです。もちろん選手の特徴というのは、それぞれにあって違います。優磨が抜けてチャッキーを入れて、まったく同じことをしようというのはもちろんできません。優磨の特徴は良いタイミングでライン間に落ちてきて、ボールを収めて、周りの選手が背後を取ることを生かす、というプレースタイルだと思います。前半に関しては、相手のライン間を使って、ということがうまくいきませんでした。今日はチャッキーが背後を抜けるのが特徴の選手ですから、チャッキー以外の選手がいかにライン間で受けて、タメを作って、起点を作って、というところが必要になってくる試合だったのですが、それがうまくできませんでした。
引用元
ビルドアップの出口になっていた鈴木優磨がいなかったことで、その役割をスタイルの違うチャヴリッチではなく他の選手に期待したが、そこがうまくできなかったということのようです。
ビルドアップの出口の役割を担ったのは名古、樋口かなと思われますが、そこがうまくいった回数が少なかったのが、試合を難しくしたんでしょうね。
今の順位は、スタメンを完全固定化することで連携面での練度を上げることで生み出されたもので、一人メンバーが代わるだけでも形が崩れてしまう脆い土台の上に築かれたものだと思っておりまして、現在地が今の順位とは離れていることを昨シーズンチャンピオンのヴィッセル神戸により暴露された一戦であったように感じました。
固定化されたスタメンからピースが1枚でも変わると途端に脆さが出る、そんな現在地が炙り出された一戦でした。
現状に満足せず、次のステップへとチーム作りを進めようとしているポポヴィッチ監督の意図はピッチ上からは伝わって来て、メンバーが代わっても同じような質を出せるよう試み、それが数こそ少ないもののチャンスシーンを作り出せているのを見ると、ここからの積み上げに期待したい気持ちの方が強いですかね。
主軸の一人 佐野海舟の移籍がほぼほぼ決まりました。
望まなくとも変化は訪れます。
中盤で攻守を支えていた佐野の移籍が決まったのもこの頃でした。
振り返ると、佐野の移籍がチームに与えた影響が大きかったように思います。
加えて、これまでは選手交代するごとにチーム力が落ちる印象しかなかったのが、この試合では3得点目のアシストを決めた藤井をはじめ、交代選手それぞれがそれぞれの良さを見せてくれたことも、逆転優勝を目指す上で評価できるポイントでしたかね。
サマーブレイク明け初戦は交代選手それぞれが良さを見せ、チームの進化を感じさせる一戦でしたが、以降、思うように結果が残せなくなってきました。
第26節磐田戦に続き、同じ昇格組の東京ヴェルディにも完敗を喫します。
鹿島としては今のメンバーでの出しうる力は出し切れたようには感じましたが、しっかり研究してきて対策してきた相手を上回れなかったことは必然と言っていいと思います。
スタメン、ベンチをほぼほぼ完全固定することでチームの熟成を早め、それにより上位争いに加われていることの弊害が出ている印象で、そこからの積み上げができていない現状では相手も対策しやすく、それに対して鹿島が打てる手も限られているように感じ、この日のヴェルディのように鹿島を上に見て対策してくる中位、下位チームとの戦いの方が厳しくなるんじゃないかなと思うわけです。
チャヴリッチの負傷離脱が痛かったのは確かですが、チャヴリッチ以外では藤井ぐらいしか違いを見いだせる選手を作れなかったところにポポヴィッチ監督が進めたチーム作りの弊害が出ているように感じますかね。
田川や、この日加入後初出場となったターレスブレーネルによる積み上げなしには、ここから上に行くのは難しいのかと思いますし、残り10試合となった状況踏まえると頂点を獲るのは相当厳しくなったのかなと感じます。
常々懸念してきたメンバーの完全固定化による弊害が顕在化した格好で、スタメンのみならずベンチもほぼほぼ固定化していたことで、負傷離脱したチャヴリッチや移籍した佐野の穴を埋めることができず、2巡目に入った対戦相手としてはしっかり研究して対策してくれば難しい相手ではなくなったように感じられた一戦でした。
スタメン、ベンチをほぼほぼ完全固定することでチームの熟成を早め、それにより上位争いに加われていたのは果実の先獲り、いうなれば果実の美味しいところだけを先にいただいていたからこその結果であったと私は思うわけです。
果実を食べつくし、次の果実を育てられなかったチームは緩やかに沈んでいくことになります。
知念が離脱中(恐らくリリースでないレベルの負傷)で、ミロサヴリェヴィッチもなかなかフィットしない状況で、ボランチ、CBのやり繰りが厳しくなっていることもそう思わせますかね。
佐野の移籍が、シーズンインから懸念されていたCBの駒不足というリスクを顕在化させ、ここまでフル稼働してきた知念も離脱するようになり、守備の綻びが隠し切れなくなったことがポポヴィッチ体制の決定打となりました。
残留争いの渦中にある湘南相手に2点のリードを守り切れずに逆転負け。
可能性こそ残すものの、優勝争いをできるようなチーム状態ではなかったことは明らかでした。
それでも後半立ち上がりは押し込む時間帯もありましたが、徐々に疲労の度合いが増していく中で立て続けに2失点。
交代のタイミングを探っていたと思われる最中での逆転劇でしたが、交代のタイミングが難しいなと感じていたので、ポポヴィッチ監督の采配を責める気持ちにはならないんですよね。
疲労が見えているのは明らかなんですが、ギリギリのところで保たれている守備バランスを交代により自ら崩しかねず、代えづらいと考えたのかな...と想像しています。
これはこの試合自体の采配の良し悪しという話ではなく、スタメン、ベンチを固定することで練度を高めて結果を残してきたポポヴィッチ監督のチーム作りの積み重ねによるものであり、優勝の可能性が限りなく低くなった現状を鑑みると、今シーズン残りをこのままポポヴィッチ監督に託していいものかという議論も必要なように思います。
この試合だけを見れば決して責められる采配ではなく、むしろそこまでのチーム作りが生んだ必然の結果だったと言えるでしょう。
下馬評を覆せる可能性こそ感じさせましたが、結果的にはJリーグでの監督経験豊富ながらも目立った実績のないという、ここまでのポポヴィッチ監督の経歴から予測できる期待値以上でも以下でもない、そんな結果でしたかね。
1試合4得点は今シーズン最多で、ポポヴィッチ体制で初めてスタートから採用した3バックがハマったという点がクローズアップされがちですが、それはあくまで限定的だったのかなと私は思いますかね。
スタートからの3バックでの今シーズン最多得点で、新しい一面を見せてくれましたが、すでにクラブ内では結論が出ていたことが翌日明らかになります。
■変革路線の頓挫
4-0と圧勝した前節新潟戦の翌日、誰もが予想だにしなかったタイミングでのリリースに激震が走りました。
監督そして監督が連れてきたコーチとの契約解除に留まらず..
強化部門のトップである吉岡FDも退任。
ここからは私の完全な想像ですが、吉岡FDの退任が先にあり、彼が連れてきた監督を残す理由がないという流れ弾的な形でのポポヴィッチ監督契約解除なんじゃないかなと。
ポポヴィッチ監督は、序盤から中盤にかけては攻守にアグレッシブな戦い方とセットプレーの強みで結果を残してきましたが、それはスタメン、ベンチメンバーを固定化してチームの熟成を早めたことにより果実を先取りした故であり、そこからチーム力の上澄みが行えなかったことで、各チーム2巡目に入ったシーズン折り返しからは苦戦の色濃くなり、それにより自ら形を崩してしまった印象でした。
シーズントータルで見ると、これまでのJリーグでの実績そのものであり、低かった下馬評を覆すことはできませんでした。
圧勝した試合の翌日という契約解除のタイミング自体は疑問符がつきますが、すでに底が見えてしまい、来シーズン任せ得る信頼感はありませんでしたので、契約解除の判断自体は妥当かと思います。
ポポヴィッチ監督については前述通りの評価で、底が完全に見えてしまっている状況で続投という選択肢はなく、予測できないタイミングではありましたが契約解除という判断自体は至極妥当だと思います。
そして、ここ数年のチームの迷走の責任を取らされた形となった吉岡FD。
彼だけの責任ではないんだとは思いますが、欧州路線へ舵を切りながらも主に監督の評価に対してのぶれがあり、我慢がきかなかった印象で、いい方向に転ぶかどうかはわかりませんが、チームに変化をもたらすことは間違いなく悪い決断ではなかったと考えます。
吉岡FDに関しては、"我慢がきかなかった" この一言に尽きますかね。
彼が最初に連れてきたザーゴやレネ・ヴァイラーともに、現在のJ1リーグで主流のスタイルを踏まえると、先見の明があったと言えると思いますが、彼らを簡単に切る一方でクラブOBである相馬、岩政には温情を見せ、評価基準への一貫性は見えませんでした。
■中田浩二FDの下で再起を目指す古豪
そして、その新FDには中田浩二。
現役引退後はビジネスサイドの立場での役割で、現場サイドとしての力量は全くの未知数ですね...
後任のFDにはクラブOBの中田浩二。
FDとしての力量は全くの未知数で、不安の方が勝っていますが、日本代表経験豊富なクラブOBにクラブの行く末が掛かっています。
もはや、鹿島はかつての"常勝"という看板を背負った古豪という表現がぴったりかと思っています。
ここ数年言い続けていますが、古豪が輝きを取り戻すには未来予想図を示すこと、まずはそこからです。
#鬼木達 氏が2025シーズンよりトップチームの監督に就任することが決定しました。#antlers #鹿島アントラーズ… pic.twitter.com/Z3xK1sPpFN
— 鹿島アントラーズ (@atlrs_official) December 12, 2024
来シーズンの監督には、今シーズン限りで川崎フロンターレの監督を退いた鬼木さんが就くことが発表されました。
川崎で一時代を築いた監督に鹿島アントラーズの再建が託されました。
鹿島アントラーズ、今年最後の記事となります。
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