ペトロビッチ体制6年目となった2023シーズンは、超攻撃的サッカーが一つの完成形を見た一方で、失点の多さ、層の薄さ、怪我人の多さと言った解決できない課題の影響が大きく、初タイトルまでは大きく届かない一年となりました。
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シーズン初めにしたためたプレビューもご参考に。
2023シーズンを振り返ります。
■2023シーズン戦績
12位(勝ち点:40、10勝14敗10分、得点:56、失点:61)
2023JリーグYBCルヴァンカップ:
グループステージ2位通過
ノックアウトステージ準々決勝敗退
天皇杯:
ラウンド16敗退
■一つの完成形に達した超攻撃的サッカー
得点数は横浜F・マリノス、ヴィッセル神戸に続いてのリーグ3位。
リーグトップクラスの得点数は、ペトロヴィッチ監督の志向する超攻撃的サッカーが実を結んだ証である一方、失点数はガンバ大阪と並びリーグワーストタイ。
失点数の多さが上位進出を阻んだ主要因であることに異論はないでしょう。
今シーズンの初勝利は第4節 チャンピオンチーム相手に付け入る隙の与えない完勝でした。
昨シーズンぐらいから、このような上位相手に内容も伴った勝利を見せられるほど地力も付いてきた印象で、タイトルを狙えるポテンシャルは秘めていることを感じさせる一方で脆さも付きまとい続けています。
楽勝ムードだった前半から一転して、相手の選手交代を機に流れが一変し、立て続けの失点を喫すも何とか踏ん張って勝ち点1を持ち帰ったゲームでした。
この試合のように、短い時間に立て続けの失点をするゲームが今年は目立った印象で、脆さを感じさせた要素なんでしょうね。
キムゴンヒが怪我で離脱中という状況も影響しているかと思いますが、最近の札幌はストライカータイプを置かない、機動力重視の布陣、いわゆる0トップでのスタートが定着しています。
マンツーマンディフェンスに取り組み始めた2020シーズン以降、この0トップ布陣は時折見受けられましたが、今シーズンは戦い方に進化が見られ、この布陣が現状での最適解であるように感じるぐらいフィットしていると思います。
機動力を重視した布陣にすることで、マンツーマンディフェンスにより札幌が志向する前線からの連動して相手を追い込む攻撃的な守備がより機能する一方、ストライカータイプの選手がピッチ上にいないことで攻撃に転じた際の決めきる力に欠けるという課題がありました。
マンツーマンディフェンスの深化により、札幌は簡単には勝たせてもらえない難しい相手と認識されるようになった一方で、得点力不足により勝ちきれない試合が多く、それがここ数年の順位に表れています。
それが今年、リーグトップクラスの得点をここまで誇っている要因の一つとしては新加入の浅野の存在が大きいことは周知の事実ではあります。
広島で燻ぶっていた才能が環境を変えたことで花開いた印象で、札幌としては鈴木武蔵以来の大当たりだと個人的には感じています。
スピード、シュート精度に秀でているところが機動力重視の布陣での最前線として、札幌に足りなかったピースを埋めてくれている印象です。
昨シーズンまでは滅多に見られなかったキレイに崩し切っての得点というシーンが、まだ12節時点での今シーズンは多く見られているように感じていて、浅野の存在が大きいことは確かですが、それに加えて崩しの質向上が決定力に繋がっているように感じている2023シーズンです。
狭いエリアでパスを繋ぎ、3人目の動き出しでギャップを作りだしたり、深く抉ってからのマイナスの折り返しだったりと、相手を見て空いたスペースを使おうという共通意識の上でいい練習が積めているんじゃないかなと感じさせます。
敗れはしましたが前節の鹿島戦同様、90分主導権を握り続けた印象で、この試合では圧倒し続けた90分といってもよい内容で、2020シーズン以降ペトロヴィッチ監督が進めてきたマンツーマンディフェンスに代表される攻撃的な守備が一つの完成形に達したように感じられ、これぞ”This is Sapporo!!”を示した第12節でした。
2020シーズン途中から取り入れたマンツーマンディフェンスを核とした超攻撃的サッカーが一つの完成形を見た2023シーズンでした。
前線から連動して相手を追い込む攻撃的な守備が肝となる戦術であることから、前線に機動力、アジリティに優れた選手を起用した方がより機能することは以前よりわかっていた一方で、ストライカータイプの選手がピッチ上にいないことによる決定力不足が近年の課題でした。
今シーズン加入した浅野が足りないピースを埋めてくれたという要素もあるんでしょうが、相手を崩していく際の共通意識がチームに浸透していて、それをベースにした日々の練習の積み上げが今の成果に結びついているように感じましたかね。
得点力は明らかに向上が見られた一方で失点の多さは変わらず、5得点を奪っても何とか勝ちきったという笑うに笑えない試合もありましたね。
3-1と札幌がリードしている局面での柏の2点目のシーンなんですが、2点リードしているチームのCKで、はじき返された時点で、後ろにGKしかいない状態になっていることが失点に繋がっているのですが...普通に考えるとリスク管理おかしいだろ( ゚∀゚)・∵. ガハッ!!
で話が終わるんですが、ここで試合後のペトロヴィッチ監督のコメントを引用します。
[ ペトロヴィッチ監督 ]
3-1でリードする中、われわれは4点目を取りにいきました。それはCKのシーンでしたが、シュートを何回もブロックされながらも打ちに行った。その打ったボールが、不運なことに相手の14番の前に行って独走されてしまう、非常に不運な形もありました。その中でも、われわれは後ろに1人置いておけば、その失点を防げたかもしれません。ただ、一番後ろの選手が打ちに行く、ゴールを狙う選択をした結果があの失点になったと思いますが、逆に言えばそれがゴールになったかもしれない。そこはたらればですが、われわれはゴールを目指していく戦い方のもと、起こってしまった出来事だと思っています。
引用元
いやいや、4点目取りに行くのはいいんだが、後ろにGKしかいない場面でシュート打ちにいくほどリスク負う必要ないだろ( ゚∀゚)・∵. ガハッ!!
と個人的にはこの発言には同意しかねるのですが、ペトロヴィッチ監督の試合に対する考え方がよく示されている発言だと感じたのでここで引用しました。
失点の多さが改善されない要因の一つは、チームを率いているペトロヴィッチ監督の思想もあるんでしょうね。
勝利よりも優先すべきことがあるとは考えていないとは思うんですが、どんな場面でも点を取りにいくという姿勢が強すぎるが故の失点の多さなんだなと改めて実感したペトロヴィッチ監督のコメントでした。
具体的に言うと、攻め続けるという精神的な意思統一がチーム内で強く浸透していることがまず一つ。
もう一つは、マンツーマンディフェンスという、1対1の対応力が強く求められるある意味個の力を試される戦術を続けていくことにより、札幌の各選手自体の地力が強化され、それがチームの地力強化に繋がっているのかなと考えるわけです。
失点の多さが改善されない一方で、そういう試合になってもこの試合のように勝ちきれるようになったのは、これまでの積み上げによる個々の選手の地力強化がチームの地力強化にも繋がっているのかなと感じだ次第です。
■今年も怪我人の多さに悩まされる
時間軸を開幕戦に戻しますが、今年も最初から怪我人の多さに悩まされた一年となりました。
2022シーズンのプレビュー記事でリスク要因として挙げていた怪我人の多さ+選手層の薄さが解消されていないどころか深刻さを増しているように感じたシーズンでした。
ここまで書いたのが、試練の一年になると考えている環境変化ですが、それに加えて昨シーズンの振り返りで提起した2つの課題、とりわけ2つ目として挙げた選手層の薄さ+怪我人の多さがリスク要因になるような気がしています。
怪我人の多さは、寒暖の差が激しい北国チームの宿命もありますが、ただでさえ少数精鋭の中で、ペトロヴィッチ監督の好む選手の幅が限られていることで、使われる選手が限られ、育たなく、結果として頭数も足りなくなってしまうという課題は、監督の志向の問題なので簡単に解決できるとは思えなく、今シーズンの札幌の行方を左右するリスク要因なのかなと。
クラブの資金力の問題もあり、少数精鋭が定着している近年の札幌ですが、その中でも起用される選手が限られ、出場機会を求めて期限付き移籍をする選手が若手を中心に多く、それに怪我人の多さが拍車をかけて、ベンチ繰りの厳しさは年々増す一方。
個人的には怪我人の多さに対してフィジカルケアにもっとお金かけるべきとは思うんですが、クラブとしてその辺をどう考えているのかは知りたいところですね。
加えて、首都圏とは遠く離れた北海道とはいえ人口200万人に迫る政令指定都市である札幌を本拠地にしているにしては資金力に乏しく、コロナ禍の影響は大きかったんでしょうが、J1に定着し続けているにしては経営面での改善はあまり見られないことも選手層の薄さが解消できない要因なのかなと。
中断期間中に、個の力で違いを出せる絶対的存在であった金子が海外移籍し、菅野と守護神の座を争っていたクソンユンが京都へ。
金子の移籍により出場機会を増やすと予測された田中宏までも移籍してしまい、ただでさえ少数精鋭な札幌はさらに層が薄くなった印象。
予測されたことではありますが、金子の穴はやはり大きかったですね...
代わりに右WBに入ったルーカスフェルナンデスは十分及第点以上の動きを見せてくれたとは思いますが、金子の穴を埋めるまではいけず...加えてルーカスが右に入った分、左サイドでの突破力が劣り...とピースの足りなさを否が応でも感じざるを得ませんでした。
クソンユンの抜けた穴は緊急補強した高木で補えた印象でしたが、金子の抜けた穴は大きかったと言わざるを得なかったですね...
90分上下動を繰り返せる運動量と突破力がチームに与えていた大きさを実感させられました。
チームは第17節~第25節まで9試合勝ちなし(5敗4分け)の低空飛行を続け、まだ残留争いからは安全圏な位置ではありましたが、このまま負け続けたら...という危機感が芽生え始めていました。
第26節で久しぶりの勝ち点3を得たものの...
残留争いの当事者である湘南、柏に敗れ、横浜FCにも敗れるようだといよいよをもって残留争いに巻き込まれる可能性もありましたが...
第31節 横浜FC戦を、流れが来た時間帯での複数得点を何とか守り切り、7年連続でのJ1残留を決めることができました。
■厳しい戦いが待ち受けているJ1 8シーズン目
J1 8シーズン目となる2024シーズンは2017年の昇格後では一番厳しい戦いが待ち受けていると予測しています。
第31節の記事からの引用です。
今シーズンよりも残留争いにおいて、より厳しい状況だった年もありますが、誰かが復帰すれば誰かが離脱するのを繰り返し、なかなかメンバーが揃わずに調子も上がってこない状況が続いて戦績も低迷し、もしかしたら大逆転で降格してしまうかも...という緊迫感だけなら今シーズンの方が強かったように感じました。
なかなかメンバーが揃わずに調子も上がってこない、そんな青色吐息な状況下で7年連続のJ1残留を決めたわけですが、この年が北海道コンサドーレ札幌にとって一つの分岐点となる年な気がしております。
ペトロヴィッチ監督就任時からの中心メンバーだった福森、宮澤、深井、荒野はベテランの域に達し、怪我だったりコンディション不良での離脱が目立つように。
その次を担う世代も順調に育っている一方で、資金力の面で劣る地方クラブは絶対的な選手の頭数が足りないことで、少し怪我人が増えるだけでやり繰りの厳しさを迫られる状況がここ数年続いております。
安定してJ1に残留し続けられるほどのチーム力がついてきた一方で、それを支えるクラブ力の底上げは物足りない印象で、今オフの補強次第では来シーズンは厳しい戦いを強いられるかも...と危惧しております。
ペトロヴィッチ監督が就任した2018シーズンに4位と大躍進した後は、10位→12位→10位→10位→12位と推移しており、かつてはエレベータークラブと呼ばれた頃を考えると、J1に定着できるクラブに成長できているという見方がある一方で、同じ体制が続いていることによる弊害も出てきており、このままの体制で進むのか、新しい体制に刷新するのか、クラブの転換期であることを色濃く感じさせた2023シーズンでした。
本記事執筆時点ではペトロヴィッチ監督続投の可能性が高く、現体制のまま2024シーズンを迎えることになりそうです。
主力の移籍の噂もある一方で、かつて在籍していた主力選手獲得の噂もあり、来シーズンの陣容が見えてくるにはまだ少し時間がかかりそうです。
ただ今言えるのは、出ていく選手よりも加入する選手が多くないと、今シーズンと同じようにやり繰りの厳しさを迫られる状況が繰り返される可能性が高いこと、そしてそれにより、来シーズンは2チーム増えた20チーム体制のJ1で3チームが自動降格になることから、厳しい残留争いに巻き込まれる可能性が高いことが予測されると私は思います。
本記事が2023シーズン最後の記事となる予定です。
2024シーズンプレビュー記事までしばしのお別れです。
皆さん、よいお年をお迎えください\(^O^)/
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